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貧しさゆえに売られ、ままならぬ人生の無情をうったえ続けた歌人、吉屋 チル

十八世紀の琉球の物語「苔の下」に知性豊かな美妓 よしや君が登場する。
遊女の身ながら一人の恋人を想い続け、金で身請けされる事を拒んで絶食し十八歳で果てたという薄幸の女性である。
よしやは彼女のいた遊廓の名称で、本名は鶴(チルー)といった。
彼女がその通りに実在したのかは不明だが、その作と伝わる数々の琉歌は彼女の置かれた抜き差しならぬ状況と生々しい感情を今も読み手に訴えかける。
自分の力ではどうにもならない過酷な運命に生きた吉屋チルという女性、あるいはそのような境遇にある無数の人々の思いを投影して、彼女の歌は読み継がれている。

「恨む比謝橋や 情ないぬ人の 吾渡さと思て 架けて置きやら」
…恨めしいこの比謝橋は、私を遊廓に売り渡す為に非情な人が架けておいたのだろうか
橋を渡って売られて行くわずか八歳のチルが詠んだと伝わる琉歌

「流れゆる水に 桜花浮けて 色美さあてど 掬て見ちやる」
…流れる水に桜の花が浮いている。色があまりにも美しいので手にすくって見たのだ
お題の上句に対し チルが下句を返したとも伝わる美しい一首。王朝時代の遊廓の文芸サロン的な一面も窺える。

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